新潟大学人文学部

現代朝鮮語の「-는-」の用法について

植田 光恵(新潟大学人文学部)

現代朝鮮語「-는-」は、日本語の「スル」にも「シテイル」にも対応しており(見る、見ている:본다)、現在・過去・未来を表すことが可能である。この内、現在を表す「-는-」は現在を表す「-고있-」とその機能に重なり合う部分が多く、言い換えても意味が変わらないものが多い。(弟がテレビを見ている동생이텔레비전을본다.=동생이텔레비전을보고있다.)しかし、全ての「-는-」が「-고있-」と言い換え可能ではなく、朝鮮語非母語話者が使い分けに苦労するところである。本稿では、現代朝鮮語の終止形「-는-」が持つ多様な用法を「-고있-」と比較しながら、文学作品から抽出した用例1044例を基に考察した。

1〜4章では「-는-」を現在・過去・未来などの成立時間によって考察した。ここから、「非アクチュアルな現在」に属する「総称性が取り立てられている文」「一般的な条件が取り立てられている文」「一般真理・一般事実を表している文」は、全て「-는-」を主に使用するが、「発話時にも動詞が示す動作が進行中であると思われる文」は「-고있-」に言い換えることができるという共通した性質を持っているという結論を導き出すことができた。未来を表す用例には「-는-」形のみが現れ、いずれも「고있-」形には言い換えできなかった。これにより「-는-」形は未来を表しうるが「-고있-」形はそれができないという両者の決定的な違いを確認できた。

-고있-」形との関係からみると、「結果状態」を表す「-고있-」形の場合、「-는-」形との言い換えが不可能であり、「進行」を表す「고있-」形の場合は「-는-」形との言い換えが可能なものが多い。これは、「-는-」形に「物事や動作がまだ完了していない」という意味が含まれているためだと筆者は考える。

5章からは、「-는-」の用法を動詞の語彙的な意味によって動作性動作動詞と抽象動作動詞(心理動詞・状態性動作動詞)に分類して考察した結果、動詞の語彙的な意味の違いや発話者の意志の有無によって用いる形式が異なってくることが確認できた。また、動詞の種類に関係なく、語彙的意味が「一時的な状態」「短い時間内に成立するもの」の場合は主に「-는-」形を用い、語彙的意味自体が「一定の幅を持った時間を要するもの」の場合は両形式使用可能であることが明らかになった。

以上をまとめて、「-는-」は「確実性・現実性の強度が強い」「動作の未完了」「始点と終点を特定できない」という意味を基に各用法同士が密接な関わりを持っているという結論に至ることができた。また、動詞を更に細かく分類すれば「-는-」形のみを用いる動詞、「-고있-」形のみを用いるの動詞に共通点を見出し、両者の使い分けを分ける原因にまで踏み込めたように思う。これは後日の課題とする。


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