新潟大学人文学部

図們江開発を通じてみる北東アジア経済圏

菅野 知之(新潟大学人文学部)

UNDP(国連開発計画)に支持された図們江開発構想は、北東アジア地域において、北朝鮮をふくめた最初の国際協力計画であり、北東アジア経済圏開発の象徴と位置付けられている。北東アジア地域には相互の経済補完関係の可能性があり、経済圏として十分な潜在力があるといわれている。そして、冷戦構造がいまだに色濃く残っているこの地域に経済圏が成立すれば、安全保障の点においても大きな意味をもつことになる。しかし、多くの人の期待を集めた図們江開発は、現在まで十分な成果がでていない。本論文の目的は、図們江開発構想が、なぜ現在まで成功に至っていないのかという検討を通して、北東アジア地域全体の発展を阻害している原因を考察することにある。

第1章では、新しい概念であり、現時点では明確な定義が存在しない北東アジア地域の範囲を定義し、同地域のもつ経済補完関係などの基礎情報についてまとめている。また図們江開発参加国が開発に参加する以前の状況をみていくことで、各国がどういった期待を持って開発に参加しているのかを検討している。第2章では、図們江開発構想の具体的な内容や一連の流れをまとめている。そして各国状況の検討を通して、構想が停滞している原因となっている問題点を考察している。第3章では、北東アジア地域において、特に深刻な状況にある中国の環境汚染について概観している。また、環境問題解決のために行われている各国間の交流を、日本政府の動向に注目しながら検討している。

第2章の考察から、図們江開発の停滞の原因として、次の2点があげられる。1つ目は、日本の図們江開発への不参加である。これにより、各国は、日本からの技術、資金の援助を得ることができていない。2つ目は、各国、各地域の共通の問題である慢性的な資金不足である。この問題の打開策としては、北東アジア地域を対象とした国際金融機関を新設するという案がある。ただし、この新設案が実現するかどうかは、地域内の最大の先進国である日本政府の意向が重要となる。しかし、現在日本政府は、北東アジア地域に対して消極的な姿勢を示しており、いかにしてこの地域に日本政府の関心をむけさせていくかが、問題解決の鍵となる。

日本政府は、特に汚染が深刻な中国の環境問題に強い関心を示しており、政府間で資金援助も行っている。環境協力をはじめとした様々な交流は、両国間の信頼関係の醸成につながるだけでなく、その地域の経済発展を促進することにもなる。こういった交流を通して日本政府の関心を北東アジア地域へと向けることができれば、国際金融機関の新設案や日本の図們江開発への参加も現実味を帯びてくるだろう。

現在、図們江開発は停滞している。しかし、北東アジア地域各国が、はじめて同じテーブルについた図們江開発構想の意義は大きい。ほとんど対話すら行われなかった冷戦時代と比べれば、環境分野の交流をはじめ、地域内での様々な交流が盛んになってきている。特に、日中韓3国の経済関係が強固になっている。経済規模の大きさに加え、環境分野の交流においても中心的な存在である3国が北東アジア地域の発展の鍵となっていることは間違いないだろう。


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