新潟大学人文学部

20世紀初頭朝鮮の婚姻と家族
−光武九年『江原道楊口郡西面戸籍成冊』『忠清南道泰安郡遠二面戸籍成冊』の分析を通して−

齊藤 碧(新潟大学人文学部)

これまでの戸籍を用いた研究には旧式戸籍を用いたものが多く、新式戸籍を使ったものはほとんどない。そこで未研究の『江原道楊口郡西面戸籍成冊』と『忠清南道泰安郡遠二面戸籍成冊』の分析を通して、当時の婚姻と家族について明らかにしようとした。

戸籍成冊には、遠二面147戸、西面238戸の記載があり、人口は遠二面486人、西面819人の戸籍登録がされている。面全体で見ても一里ごとで見ても、女子よりも男子の人口が多いのが特徴であり、朝鮮では男子を出産したがる傾向が強いという通説を立証する一因となった。また、両面の年令を見ることで明らかとなったのが、男女共に15歳以下の人口が極端に少ないことだ。特に1〜5歳児の少なさに目がいく。このことについては、乳児死亡率の高かったことが原因であると考えられていて、当年生はいまだ生存し成長するかどうか未知数であり、戸籍に載せるべきではないとみなされていたためだという吉田光男氏の見解がある。これを基に、15歳以下についても戸籍に載せることにあまり重要性がないと考えられていたからではないかと推測した。

家族形態については両面とも夫婦のみの戸がもっとも多く存在したが、一戸あたりの居住者数を計算(居住者÷現住戸数)した結果、遠二面3.3人、西面3.44人という数値が出た。ちなみに同時代の他地域の居住者数は、ソウル5.5人、仁川3.13人、開城3.59人、あるいは3.31人ないし3.89人という農村部の例がある。戸主の職業が農業で9割を占める遠二面と西面は、農村部に位置づけられると考えるので、同時代の農村部の他地域と同等の数値を算出していることが理解できた。また、家屋についての記載も新設されたことによって、家屋の家間数と居住者数の関係もわかった。家間数の多い家屋には、5人以上の居住者がいて、戸主の職業が士人という両班の家柄であるのが特徴として挙げられる。家間数と居住者数の多さは比例していることがわかった。

また婚姻については、やはり禁じられていたこともあってか、同姓同本婚が遠二面と西面の両面でまったくおこなわれていなかった。しかし同姓異本婚は、少数ではあるが確認することができた。この背景に朝鮮の姓の種類の少なさが関係していると考えた。金、李、朴の三つで60〜70%を占めていて、本貫が異なることで金氏には約612、李氏には約600、朴氏は約580の種類があるという。つまり、同姓同本婚は確率から見ても低いが、同姓異本婚が皆無というのはあり得ないだろう。さいごに夫婦年令差についてだが、遠二面と西面においては妻年上説が当てはまらないと言える。妻年上夫婦よりも、やはり夫年上夫婦数が多く見られた。


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