新潟大学人文学部

王績詩研究
―飲酒詩を中心として見る王績の詩世界―

神林 秀輔(新潟大学人文学部)

初唐の詩人である王績は、故郷である龍門で隠逸生活を送り、酒・琴・自然を楽しむなど、悠々自適に暮らしたことで知られている。特に彼は酒好きとして知られており、王績と酒の関係は深いものであった。本論では、飲酒詩を通じて彼の人生観や詩世界がいかにして形成されたかを論じる。

彼は人生において三度出仕し、三度隠棲した。一度や二度隠棲し自適な生活を送ったにもかかわらず、官職を求め続けるのには理由があると考えられる。それは、世俗への意識が強かったことが挙げられる。若い頃は官職を求める意識が強かった王績であるが、その出世への手がかりは、彼の期待に反してことごとく潰えて、世俗を離れ、隠逸生活を送らざるを得なくなった。従って、彼は好んで隠者になったわけではない。しかし、隠者は世俗に対して、常に自己の存在を示していかなければならないものであるので、官職への期待を棄てた時点で、世俗と絶縁したかのように見えたが、生涯を通して世俗を意識して生きていかなければならなかったのである。

王績が隠逸生活を送る上で、世俗から疎外されて生じた挫折感が、寂寥感へと形を変え、詩中に表れた。また、彼はその挫折感を解消するために、「酒」に頼り、「酔郷」に依拠する方法を取ったのである。その彼にとって、一体「酒」とはどのような存在であったか。

王績が「酒」を飲んだのは、世俗に疎外されたことで生じた寂寥感・孤独感を解消するためであった。また、先輩隠者と同じ行為をすることで隠者として生きることができ、自己の存在を世俗に対してアピールするために「酒」を飲み、その「酔郷」に依拠したと考えられる。 王績は、世俗から絶縁しようと隠逸生活を送ったのだが、逆に、一生世俗への思いを消すことができなかった隠者であったと私は考える。


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