新潟大学人文学部

動詞及び動詞句に前置する“好”について

小倉 愛未(新潟大学人文学部)

周知のように、現代中国語において“好”は様々な用法をもつ。本稿では“好”の用法の中で、動詞及び動詞句に前置する“好”の用法(以下“好+V”とする)について考察する。本稿で扱う“好+V”は、《現代漢語詞典》における次の三つの用法である。一つ目は、“好看”(きれいだ)、“好吃”(美味しい)などのように、人を心地よくさせる性質を表すもの、二つ目は“这个问题很好回答”(この問題は答えやすい)のように「・・・しやすい」という意義のもの、三つ目は“地整平了好种庄稼”(土地をならした、作物を植えるのに都合がよいように)のように「・・・するのに都合がよいように」という意義になるものである。

“好+V”における“好”の分類や品詞のとらえ方について先行研究、辞書や文法書において統一の見解が見られない。本稿の執筆の動機は、そのような多様な先行研究の分類を整理することであり、さらには先行研究と筆者の考察を踏まえて“好+V”についてより妥当と思われる分類の提示を目指すことである。その方法として、歴代の文学作品における用例を調査する。具体的には、清代前期の北京語で書かれた作品であり、現代中国語の祖と言われる《紅楼夢》(第八十回まで)、現代中国語作品から老舎の《駱駝祥子》、さらには「当代」作家の王朔の《我是你爸爸》から用例を検出し考察する。

調査の結果、該当する“好”は《紅楼夢》で189例、《駱駝祥子》で66例、《我是你爸爸》で40例見られた。それらの用例を大きく見て四つに分けて考える。即ち、「・・・しやすい」、「五官に心地よい」、「・・・できる」、「・・・のために」という意義で分けて考える。さらに各分類は細分できるように思われる。大きな四つの分類を、以下のように“好ⅰ”〜“好ⅳ”と置くことにする。

  1. 好ⅰ:「五感に心地よい」という意義になる。
  2. 好ⅱ:「・・・しやすい」という意義になる。
  3. 好ⅲ:「・・・できる」という意義になる。
  4. 好ⅳ:「・・・のために」という意義になる。

そうすると、意味と形式の観点から見て二つの方向性があるように見える。

  1. (1)好ⅱ→好ⅰ
  2. (2)好ⅱ→好ⅲ→好ⅳ

筆者は「…できる」という意味になる“好”を独立した分類として設置することを提案したい。それによって、“好ⅱ”を始点とした好ⅱ→好ⅰ、好ⅱ→好ⅲ→好ⅳという派生関係をとらえやすくなると考える。

本稿では“好+V”について、多様な先行研究の分類を整理し、三つの異なる時代の作品、《紅楼夢》、《駱駝祥子》、《我是你爸爸》から用例を集め、分類をした。考察の結果、上述の好ⅰ〜好ⅳの四つの分類を提示した。先行研究との違いは“好ⅲ”を新たに設けたことである。こうした分類の結果、好ⅱ→好ⅰ、好ⅱ→好ⅲ→好ⅳという二つの方向性が見られると考えた。これによって、“好+V”の複数の用法の関連性を説明することができた。一方、時代の異なる三作品で用例を調べたが、時代による変化は見られなかった。


2008年度卒論タイトル Index