新潟大学人文学部

葉紫研究

新井田 香(新潟大学人文学部)

葉紫(1910-1939)が創作活動に至ったのは、自らが経験した世の中への不満や怒りを発散するためであった。葉紫は、1926年に湖南省で起こった農民運動で父と姉を国民党に殺され、それから長江中流域で流浪生活を送り、1930年に上海に至り創作活動を行った後、1939年にわずか29歳で病死している。その生涯は、魯迅によって「太平天下のおとなしい人の一世紀分の経歴に匹敵する」と評されるほど波乱に満ちたものであった。本論文では、葉紫が主に取り上げたテーマである、農民が地主の搾取に立ち向う過程を描いた作品と、共産党主導の革命を描いた作品を取り上げ、それらの作品の主題と特徴を明らかにした。

第二章では、葉紫の代表作である「豊収」とその続編である「火」を取り上げ、主人公である曹雲普と立秋の農民の親子について考察した。農作業と、その成果である農作物の収穫に対するきわめて深い愛着は、両者共通している。共通の基盤を持ちながらも、「豊収」では曹雲普は租税を軽減してもらうために地主に哀願し、立秋は地主への反抗計画を立てるという別々の方法で地主に対応していく。しかし、「火」では曹雲普も立秋の考え方に賛同する。そこには、自分たちの生活が守られないことが明らかになれば、曹雲普のような老農民であっても反抗に立ち上がるべきである、という作者の願望が込められていると考えた。次に、「豊収」、「火」の描写を取り上げ、葉紫が農村を舞台にした作品を描くにあたって工夫している点について考えた。作中では、清明節、啓蟄、立春、春分、中秋節など二十四節気に関する語句が多用され、それらによって季節の変化を表現している。さらに、天候の変化と、それに一喜一憂する農民たちの姿も描いている。そのような描写によって、農作業と自然との密接な関係を伝えている。また、農民たちが天候に恵まれるために、神様に祈梼する様子や、運勢を占う様子も数多く登場している。それらの描写によって、農村での生活の様子をより鮮明に浮かびあがらせることに成功していると考えた。

第三章では、中編小説「星」を取り上げ、登場人物の共通点と、タイトル「星」とは何を示すのかを考えた上で、この作品の主題を明らかにした。「星」という作品は、作中の登場人物を社会に虐げられる人物として描き、世の中の狂気を暴きだすとともに、そのような世の中を変えるためには梅春姐のように革命に立ちあがる必要があるということを訴えていると結論付けた。

葉紫は農村の無残さと貧困、さらに農民が血生臭い革命に飛び込んで勝利を手に入れるために立ちあがる様子を描いた。彼の革命に対する激情と信念は、作中に旧社会の滅亡の必然性として反映されている。また、葉紫は自身が体験した社会への不満や怒りだけではなく、そこから得た教訓も作品の中に込めて、読者に圧迫者に対して立ちあがることの必要性を説いている。そうした彼の作品は、読者を激怒させるだけではなく、同時に読者を鼓舞する力も持ち合わせている。

2010.2.19


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