新潟大学人文学部

南北朝鮮の言語差に対する認識について

大高 里菜(新潟大学人文学部)

朝鮮半島の分断(1948年〜)以降、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国(以下、本稿では「韓国」「北朝鮮」と称する)は社会体制・制度の違いにより、それぞれ独自の文化を発展させてきた。その中でも、意思疎通が不可能なほど深刻ではないが、韓国と北朝鮮それぞれの言語に違いが生じ、そのことが研究者に限らず一般の人々の関心も集めている。

言語の異質化とは、同じ言語を使う人々が長い間別々に暮らすことによって言語に違いが生まれることである。言語の違いは音韻・文法・語彙などに現れるが、一番初めに変わるのが語彙である。北朝鮮では、綴字法、標準語規定や外来語表記法など、語文規定が韓国と異なるために変化した語彙が多くある。

本稿では、特に、南北首脳会談(2000年6月15日)のテレビ放映をきっかけに北朝鮮の言語に対する韓国の人々の関心が高まったのではないかと考えたため、南北首脳会談前後はもちろん、1990年代〜2010年までの韓国の新聞記事を参考にしながら、南北の言語に対する韓国人の見解を読み取ることを試みた。また、実際に、言語使用の場において、どのような差異や問題点があるかも同時に考察した。

南北の言語差は、言語規範の違いによって現れるため、第1章では、南北の言語規範の違い及びそれによって現れた異質化の例について述べた。

第2章では、北朝鮮の「文化語」や、南北の言語政策機関について述べた。南北の言語差に対する韓国の人々の認識についても1990年〜現在の新聞記事から読み取った。

筆者が1990年代から現在までの新聞記事を調査した限りでは、異質化は深刻なレベルではないという記事が2編しかなかった。これは、社会体制が違うために、北朝鮮の文化語運動などで生まれた言葉などが、異質化の要素として大きく取り上げられているためだと考える。1つ違いを見つけてしまうとそこばかりに目が向けられがちであるが、2004年8月24日付の京郷新聞によると、金正日は、金大中の言葉を80%は理解できたことが分かった。したがって、南北の言語が異質化していると言い切ることはできない。しかし、第1章で述べた同音異義語については、南北の人々の意思疎通に支障をきたすため、統一に向けて調整しなければならない問題であると考える。

実際の言語使用の場については、金正日の例しか挙げられなかったが、今後、南北統一に向けて南北の人々が交流する機会が増えることによってさまざまな差異や問題点が明らかになるだろう。そうすれば、南北言語の異質化に対する人々の相互理解が深まり、言語差に対する違和感も薄れていくと考える。

2011.2.17


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