新潟大学人文学部

中国近代秘密結社と上海
―民国の上海青幇を取り上げて―

Loh Yan Yee Penny(新潟大学人文学部)

中国では秘密結社が数多く存在していたが、これらは大まかに白蓮教を主体とする宗教結社と、天地会を主体とする民衆結社に分けることができる。また、民国の中国の秘密結社として、上海青幇を挙げることができるが、その源流は羅教という運漕業に携わる下層民衆が中心となった相互扶助的な宗教結社であった。近代に入ると、青幇は政府と結託しながら、アヘン売買や賭博の経営に携わったりするなど、いわゆる「黒社会」組織へと転身した。本論文では、近代以前の青幇の成立と変遷を明らかにし、次に、アヘン・麻薬売買に関する活動を通し、民国期における青幇と国民党政府との関わり、日本側との関わりを検討した。

第1章では、青幇の源流である羅教の形成と、規範や入会儀式などが定まった水碼頭時代の青幇について考察した。羅教は明代中期に羅清という元運漕業軍人によって作られた新興宗教である。羅教は運漕業に携わる人々をはじめ、多くの信仰者を有していたが、やがて政府に邪教とみなされ、ついそれに対する弾圧が始まった。これに加え、清の乾隆帝による厳しい取締りにより、羅教はついその転換点を迎えた。羅教はその活動中心を船に移し、規範や入会儀式などを定め、運漕業の水手による水碼頭時代の青幇に転身した。

第2章では、水碼頭時代から旱碼頭時代に転身した青幇と、黒社会組織になった民国の青幇、及びその変遷について検討した。清末の海運の開始と太平天国の乱により、青幇はその根拠地を陸地に移し、両淮塩場で「青皮」という組織と合流し、「安清道友」という組織を結成し、私塩販売を行った。これが旱碼頭時代の青幇である。その後、青幇は拠点を上海に移り、民国期には新たな活動を開始した。民国期、上海青幇を代表する人物として、杜月笙を挙げることができる。彼は裏社会のボスでありながら、一方で蒋介石に重用され、軍・商など様々な業界に進出し、表社会に出ていた。それゆえ、彼は最も民国の青幇を代表する人物であると言える。

第3章では、民国期の青幇のアヘン・麻薬活動を通し、青幇と国民党との関係、青幇と日本との関係について考察した。財政困難に直面した国民党政府と、表社会に出ようとする裏組織の青幇は、禁煙活動を通して、それぞれが直面する問題を解決しようとした。同じころ、中国侵略を企む日本側と金儲けを目的とする青幇は、アヘン・麻薬売買活動を通じて深い関係を持つこととなった。

本論文では、青幇の成立と変遷、および民国期における青幇の活動について検討した。近代以前の青幇は、相互扶助を目的とした組織であったが、民国期に入ると黒社会組織へと転身した。また青幇は、アヘン・麻薬販売活動を通じて、国民党政府や日本と関係を深め、互いに「利用し合う」という関係を築いたのである。

2011.2.8


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