新潟大学人文学部

1930年代における在日朝鮮人の生活史
―在日朝鮮人生活調査を通して見る生活環境と調査の特徴―

田中 翔子(新潟大学人文学部)

現在日本には数多くの在日朝鮮人が暮らしているが、朝鮮人が日本に渡来し居住するようになった背景には日本の朝鮮植民地支配が大きく関係している。本論文では在日朝鮮人社会の拡大・定着期とされている1930年代に焦点を当て、当時の在日朝鮮人生活調査から彼らの生活環境と朝鮮人生活調査の特徴について検討した。

第1章では1930年代に朝鮮人が渡来した経緯についてまとめた。渡日した朝鮮人の多くは労働目的の農民であり、朝鮮人の渡日は日本が植民地期朝鮮に行った土地調査事業と産米増殖計画事業が大きく影響していた。土地調査事業によって土地をなくした農民は小作人となり貧困化し、また産米増殖計画事業では朝鮮の米が日本移出され朝鮮内の米消費は減少し春窮農家が増え農民は困窮を極めていった。結果、農民は没落し離農離村が起き、労働のために日本内地や満州へ渡航する者が増加した。朝鮮人労働者が増加したことによって日本国内の失業問題は悪化し、日本政府は朝鮮人の渡航制限をする等の対策を行ったが一方で不正渡航が増え規制の効果は低かった。当時の新聞からも失業者増加の問題に対する日本政府の対応が読み取れた。

第2章では日本の中でも在日朝鮮人数が多い大阪と東京の在日朝鮮人生活調査について取り上げた。1930年代の4つの資料から、当時の在日朝鮮人の生活状態と生活調査資料の特徴を考察した。調査内容は〈調査の目的や調査の方法〉〈調査事項〉〈世帯数・世帯員数〉〈収入と支出〉〈住居状態〉〈職種〉に焦点を当て、調査結果と資料の特徴を検討した。4つの調査資料では、作成目的によって調査事項に違いが見られた。警察の調査資料では在日朝鮮人の犯罪や紛議、要注意者等の調査が多く行われ、福利目的の調査資料では要保護世帯数を載せてあるなど、資料ごとに特色があった。

1930年代の在日朝鮮人は言葉や風俗習慣の違いから日本人と馴染めず、職は非熟練でもできる低賃金で重労働の仕事が多かった。資料から、当時の朝鮮人労働者の収入は日本人労働者よりもかなり低く、住居の1人当たり畳数は2畳も無く、密住状態で貧しい生活をしていたことが伺えた。警察の調査資料を除く3つの資料の作成目的は、当時朝鮮人が急激に増加したことによって悪化した国内の失業問題や社会問題を解決することであり、日本人が朝鮮人の生活状態をより理解しようと調査が行われていたと考えられる。

2011.2.18


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