新潟大学人文学部

韓国絵本研究
―昔話絵本と日本での受容について―

山田 文恵(新潟大学人文学部)

近代の朝鮮児童文学は、日本の植民地統治下で発展し、日本との関わりの中で研究されてきた。しかし植民地統治から解放されて60年以上が経過した現在の韓国では、教育や社会状況が変化し、世代交代が進み、児童文学の分野でも大きな転換期を迎えている。特に絵本の分野では、韓国の絵本が国際的な評価を受け、国外でも翻訳絵本が出版されるなど、世界的に発展を遂げている。日本でも韓国絵本の翻訳出版が近年盛んになり、現在出版されている韓国絵本は50冊を超えている。本稿ではその中でも昔話をもとにしている絵本をとりあげ、韓国絵本の特徴を考察した。また、絵本出版社100社の協力による絵本のポータルサイトである「絵本ナビ」に投稿された読者レビューを参考にし、韓国絵本が日本の読者にどのように受容されているかを考察した。

第1章では、日本で出版されている韓国昔話絵本9冊を取り上げた。それぞれの絵本について、あらすじ、もとになった昔話、日本に存在する類話、読者レビューを紹介した。韓国の昔話絵本は、昔話を忠実に再話しているものが多かった。韓国らしい風物が絵になることでより昔話の世界を楽しめるようになっている。日本に類話があるものについては、両方を比較して楽しんでいる読者が多くみられた。類似する昔話や話の特徴が日本でもなじみ深いものとなっている作品は、読者レビューも数が多い傾向にあった。話が似ていても、登場する人物や物、生活の情景などに日本にはない文化を見ている人も多かった。また、訳者の創意工夫で韓国語音のままに記された擬声語や感嘆詞に関心を寄せる読者もいた。これは韓国語の絵本を出版する際に、日本の読者により楽しんでもらうための手法の一つと言えることが分かった。

第2章では、もとになった昔話が同じである『あまのじゃくなかえる』と『あまがえるさん、なぜなくの?』について、絵本になることで話にどのような違いが出てくるかを考察した。合わせて日本での受容も1章と同様に見た。『あまのじゃくなかえる』の方は母親の心理描写が多く、母親の困った顔が絵で印象的に描かれている。一方『あまがえるさん、なぜなくの?』は心理描写は少なく、母と息子のやりとりが簡潔に書かれ、絵は子どもが落書きしたようなタッチで描かれている。このことから、『あまのじゃくなかえる』は教訓性が強く、『あまがえるさん、なぜなくの?』は、あまがえるが鳴くようになった由来を小さな幼児にも分かりやすく伝える絵本となっていることが分かった。読者レビューを見ても、『あまのじゃくなかえる』の方に教訓性を感じたというレビューが多く、ここからも2つの絵本の違いを見ることができた。

以上本稿では、日本で出版されている韓国の昔話絵本について、読者レビューも参照しながら、韓国絵本の特徴と、読者がどのように受け入れているかを見てきた。今後韓国絵本の翻訳がさらに進み、多くの読者に読まれることを期待したい。

2012.3.5


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