新潟大学人文学部

韓寒作品に現代中国の教育問題をさぐる

石塚 萌佳(新潟大学人文学部)

韓寒(1982〜)は中国で最も公共的影響力のある一人である。ブログを開設してさまざまな社会批判をしている。本論文では、韓寒の中国の教育現場に対する批判などに焦点を当て、『三重门』・『像少年啦飞驰』・『光荣日』・『韩寒五年文集』・『穿着棉袄洗澡』の5作品を中心に、中国の教育問題がどのように取り上げられ、描かれているのかに注目して、中国の教育実態についても整理しながら、考察した。 第一章では、まず、小説の舞台である中学校・高校を中心に、「重点学校制度」はいつ頃から行われたのか、その目的はどのようなものだったのかについて見ていった。小説からは、中国の受験生と保護者の受験に対する温度差がかなりあることがわかる。

第二章では、文革終結後の中国で10年間停滞した専門人材養成の後れをカバーするため、第一章で見た「重点学校制度」がとられたこと、したがって、文革直後の「応試教育」の構造は国家の教育政策から必然的に導かれたものとも言えることを確認した。『三重门』では、「4組の女子生徒の自殺」を通して、世の中の大人たちに「応試教育」が子供たちの精神や身体にもたらした弊害を伝えようとしていると考えた。

第三章では、新中国成立後の中国における教師はどのように育てられているのか、師範教育の歴史について見ていった。学校はさまざまな行動規制によって減点や順位付けを行い、受験教育で生徒の心を縛りつけるだけでなく、生徒の行動までも型にはめようとしているのが読み取れた。

第四章では今中国で高まりつつある、手段を選ばず、高く売れるものなら何でも作り、他人の命はどうでもいいという風潮について、このような風潮はいつ頃から現れたのかについて見ていった。また、このような風習は彼らの幼いころから身について、そして彼らが大人になったとき、また彼らの子供へ伝えられると考えられる。

第五章では、「学級管理制度」の弊害について見ていき、韓寒がこのテーマを取り上げた目的は何かを考えた。「学級管理制度」は賄賂による官職の売買、保護者の機嫌をとるための官職の乱立や幹部生徒と一般生徒の間に溝を作るなどのさまざまな問題を引き起こした。それによって、本当に組織能力を持っている生徒が埋没させられてしまうことを、韓寒はここで問題提起したと考える。

韓寒の作品を読んで、やはり最も印象に残ったのは彼の教育制度に関する考えである。高校入試制度に関する問題はとても頭を痛くさせる問題であるが、今のところは解決策はないだろう。『三重门』の後書きからは、「全面発達でなくてもいいから、偏っても、個性を出すこと」を支持していることがわかる。また、彼の作品におけるすべての主人公に共通する特徴がある。それは、みんな反逆的な素質があり、自分の周囲を取り巻く環境から脱したいと思っているが、結局自身の無力さを感じ、周囲に飲み込まれてしまうというところである。

2012.3.7


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