新潟大学人文学部卒論(アジア文化履修コース)

否定を強める語気副詞について

野田 将人(新潟大学人文学部)

現代中国語において、否定を強める場合に用いる副詞は多く存在するが、その中でも“并、绝、决、毫”という4つの副詞については、一語で否定詞を修飾し、「決して〜ない」「ちっとも〜ない」という類似した意味になるから、共通性を感じることができる。しかし語自体が異なるため、伝達する情報やニュアンスは異なり、使い分けができるのではないかと考えられる。そこで本稿では、日本語において「決して(〜ない)」、「ちっとも(〜ない)」などの意味を持つ、否定を強める副詞“并、绝、决、毫”の共通性と使い分けについて考察した。

第2章では辞書における其々の用例を先行研究と照らし合わせながら、語の副詞用法を持つまでの変遷過程をまとめた。4つの副詞は「語気副詞」とされているが、“并”には先設(“并”が使われる文の前に存在する、文脈や常識から判断される内容)をも否定する、“绝、决”は「断固とした」ニュアンスを含む、“”は「毛先の細さ」から転じて否定を強める副詞に変遷したという異なる特徴を挙げ、共通性の中に違いがあることを述べた。

第3章では現代中国語の北方の作家、杨沫《青春之歌》王朔《看上去很美》、《我是你爸爸》、《顽主》の二つの時代の作品から用例を採り考察した。“”は総括対象を「否定文及びその先設」とし、肯定の予測を否定する反駁の意味を含む。“并没(有)”の目的語に「主語+述語」や「疑問代詞/指示代詞」を用いると、反駁の意をさらに強調できる。“绝、决”は意味・用法的に非常に近いが、“”はより主観的、“”はより客観的な状況で用いる傾向にある。二つを使い分けない場合、使用環境において主観と客観を区別する。“”は地の文に多く、“+否定詞+○○”という四字熟語を作りやすく、連用修飾や連体修飾の形式をとることが多い。以上の傾向を第4章では筆者による作例で使い分けを試みた。

(日本語)「君は全然躊躇わないで、彼は絶対もう来ないだろう、と言った。だけどそれは全く何の根拠もないよ!彼はきっとここに来る。これだけは何としても譲らない。」 (中国語)“不迟疑地说;他不会再来了。可是,这没有什么根据!他一定来我们这儿。只有这我不让步。

并、绝、决、毫”を比較対象とする先行研究は見られていないことから、本稿では用例を集め比較することで、普段意識せずに使用している語の意識的な棲み分けを行い、場面に応じた、より妥当な語の選択に近づくことが出来た。

2013.2.12


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