新潟大学人文学部卒論(アジア文化履修コース)

パンソリと瞽女唄の比較

佐々木 百合香(新潟大学人文学部)

パンソリは朝鮮の伝統芸能である。広大と呼ばれる旅芸人によって演唱され、語り手である唱者が鼓手の打つ太鼓の伴奏に合わせて、演技的動作を行いながら長編の物語を歌い語る。瞽女唄は、盲目の旅芸人である瞽女が三味線の伴奏に合わせながら「葛の葉子別れ」「八百屋お七」「小栗判官照手姫」といった物語などを歌い語る芸能である。パンソリと瞽女唄は、生まれた国も、歌い語る物語も異なるが、楽器の伴奏に合わせて歌い語る点や、昔から伝えられてきた物語を語る点、師匠が弟子に演じてみせて伝承する点など、多くの共通点がある。パンソリに衰退期はあったが、その時期を乗り越えて現在も伝承が続いている。しかし、瞽女唄は伝承する歌い手はいるものの、盲目の旅芸人である瞽女はいなくなってしまった。本稿では、パンソリや瞽女唄の歌い手たちの生活や活動の様子、また、聴衆や歌い手たちを取り巻く環境や保護政策の点から2つの芸能を比較して違いを分析し、パンソリの伝承が途絶えることなく続いている理由、瞽女がいなくなってしまった理由について考察した。

第1章では、それぞれ代表的な歌い手を挙げて、彼女たちの生活や活動の様子を紹介した。パンソリは、もともと賤民階級の広大が主な歌い手だったが、次第に両班の歌い手も登場し、また、男性の唱者ばかりだったところに、女性の唱者が登場するようになった。身分や性別を越えて歌われるようになったという点は、伝承が続いていることに大きく関係しているのではないか、と推測した。それに比べて、瞽女は規則が厳しく、盲目の女性に限られていたため、瞽女唄の衰退につながったのではないか、と考えた。

第2章では、パンソリと瞽女唄それぞれを保護するための政策や活動を紹介した。パンソリに限らず、韓国では無形文化財に指定されると、その伝承者たちには補助金が支給され、それが生活や活動の大きな支えになっていることがわかった。しかし、日本では、重要無形文化財に指定された場合と、選択無形文化財に指定された場合とでは支援内容に違いがあり、瞽女唄は選択無形文化財として指定されたために瞽女たちは補助金を支給されなかった。この扱いの違いが現在の伝承状況に大きな差を生みだしたのではないか、と考えた。

第3章では、取り巻く環境の変化がパンソリと瞽女唄それぞれにもたらした影響に焦点をあてた。パンソリも瞽女唄も、戦争や他の娯楽の登場によって、人々の関心が薄れてしまったり、活動に支障をきたすようになったことが明らかになった。 どちらの芸能も衰退し、危機的状況に追い込まれたのは同じであるにも関わらず、現在の伝承の状況を見ると、大きな差がある。それは、歌い手の条件がパンソリよりも瞽女唄の方が限定されていたこと、そして伝統芸能を保存・継承させようとする国の姿勢の違いから生まれたと考えられる。それぞれの伝承者には伝統芸能の保存、伝承にこれからも取り組んでいってほしいと切に願っている。

2013.2.12


2012年度卒論タイトル Index