新潟大学人文学部卒論(アジア文化履修コース)

張天翼『宝葫蘆的秘密』研究

吉田 早輝子(新潟大学人文学部)

張天翼(1906-1985)は中国湖南省湘郷の出身。中学を卒業後、絵画の勉強をして一時画家になろうと志したが、その後新聞記者や教師などを経て、1928年初めて小説を発表して作家生活に入った。以来多くの作品があり、中国における代表的な作家であり、児童文学者である。今回取り上げる『宝葫蘆的秘密』は1957年に『人民文学』に発表された長編童話である。58年に中国少年児童出版社から一冊の単行本として出版され、その後何世代にもわたって中国の少年少女に読み続けられてきた。本論文では、『宝葫蘆的秘密』の作品分析を通し、当時の時代背景、作者が読者の子供たちに伝えたかったことなどを明らかにすることを目的とした。

第一章では張天翼の略歴、主要児童文学作品の紹介、童話創作の目的、中国児童文学史の中で彼が果たした役割についてまとめた。

第二章では『宝葫蘆的秘密』の作品分析をさまざまな角度から行った。まず第一節では、作品紹介をした。第二節では、宝葫蘆が王葆のために出した食品や物を表にまとめて、当時の子供たちの興味や時代背景について考察した。第三節では作品内においてどのような事件が起こったのかをまとめ検討を行った。第四節では張天翼の童話の特徴ともいえる幻想性と現実性の結合について考察した。幻想性が表れている部分として、言葉を話す金魚を取り上げた。金魚たちが王葆に話しかけてくる時は必ず王葆が孤独を感じたり、不安を抱えているときであったことからこの言葉を話す金魚は王葆の心の隙間を埋めるもの、また王葆の寂しさの象徴であると指摘した。現実性が表れている部分としては、科学を尊重する考え方と生き生きと描かれている子供たちの様子を例に挙げた。第五節では、作者の伝えたかったことは何か、またどのように表現されているのかを、登場人物の言葉から、宝葫蘆の行方から、という二つに分けて考察した。その後これまでの考察を踏まえて、作者が本作品を通して子供たちに伝えたかったことは何か、ということについて筆者自身の考えをまとめた。

作者は宝葫蘆に自身が批判したい考え方や行動を投影し、最後に王葆がそれらに打ち勝つ、という過程を通して子供たちに教訓を伝えようとしていた。宝葫蘆に投影されていたのは、「労せずして手に入れる」という誤った思想意識であった。また、王葆が宝葫蘆の誘惑に打ち勝ち、それを手放すという一連の過程を通して、人生の意義や目的を読者に考えさせることに成功している。『宝葫蘆的秘密』は子供のための教育童話という側面と、1950年代の中国社会の子供たちやその周りの人々の生活状況を知る貴重な資料という側面を持ち合わせている。作品を通して描かれていた教訓はいつの時代にも通じるものであり、内容も比較的分かりやすいので、作品としては十分評価に値すると結論付けた。

2013.2.12


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